サッカー選手のための栄養講座
成長期の栄養 サッカーにかかわる部分をプラス
久保田尚子 森永製菓褐注N事業部・管理栄養士
世界の強国と比べて、いつも指摘される身体能カの問題は、成長期にしっかリと栄養をとることで解決したい。今月は「成長期の栄養」というテーマを取り上げた。ふだんの練習や試合で体力不足を感じている選手は、ぜひ参考にしていただきたい。
今年は"炎暑"の言葉さえ聞かれるほどの暑い夏だったが、"夏バテすることもなく頑張れただろうか。この夏、暑さに負けることなく頑張った選手には、きっとスタミナという「素晴らしい勲章」が、与えられたことだろう。さて今月は「成長期の栄養」について解説する。
サッカーに限らずどの種目についてもいえることだが、スポーツをする人はしない人に比べ、多くのエネルギーや栄養を必要とするのは、誰でも承知のことである。それが、成長期となるとさらに必要となる。
つまり、成長に必要な栄養とスポーツにかかわる部分とを加算なくてはならないからである。そしてそこをきちんとしないと、"スポーツをすることは体によいはずなのに、リスクのほうが大きくなってしまう結果になってしまうのである。
そこで今月は、食欲の秋でもあるので、よりよく食べてもらうため、“成長期のサッカー選手にとっての栄養”という観点で考えていきたい。
成長期とエネルギー
人間の一生を考えたとき、成長発達がいつも同じ割合で変化するとは限らない。そのなかで青年期は急速な成長が見られる時期で、この時期がいわゆる"成長期。である。個人差もあることだが、一般的にはこの時期が発育の2番目の山といえるだろう。
ちなみに身長の発育についてのグラフ(図1)を見てみると、誕生直後の身長増加に続く第二のピークがこの時期だということがわかる。つまりこの時期は、身体の“完成期”ともいえる時期なのである。
しかし栄養食事に関しては、ほとんどの場合、栄養的知識も嗜好も完成されていないことが多いので、“発育途上”と考えてよいたろう。つまり、《食事の自己管理ができる》というスポーツ栄養の大きな目標の一つを、今後達成できる可能性をまだ十分備えている時期ともいえるわけである。
昨年の4月から使用されている「第6次改定日本人の栄養所要量」でも16歳までは、体重増加のためのエネルギー消費量を特別に加える必要があることが定められている。つまりそれだけ"成長"ということを、意識する必要性を唱えているのだと思う。
おやつをレベルアップ
朝食欠食(朝ごはんを食べない人)が、若い人の間でふえつつあることがさまざまな調査で明らかになっている。調査によっては、中高生の約10%が朝食欠食で、大学生など、20代になると、さらにふえている傾向だともいわれている。つまり、1回3食が常識ではなくなってきているともいえるのである。しかしそれは、成長期のサッカー選手には絶対避けてほしいことの一つである。
サッカー選手のように、必要とされるエネルギーや栄養素の多い人にとって、食事の回数が少ないと当然十分な量がとれなくなる。だから選手は、朝食欠食どころか、できれば1日3食ではなく、むしろ回数をふやして1日4〜5回食にしたいくらいなのである。そうはいっても学校にいっていたりと、状況を考えると難しいので、今回は“おやつ”の充実を心掛けることを提案したい。
“おやつ”というと、どんなものを想像するだろう。
《スナック菓子十コーラ》、《ショートケーキ十紅茶》《甘くておいしいお菓子》など“おやつ”の響きには、何か楽しくなるようなものがある。しかしサッカー選手にとっては、ただ楽しいだけでなく、選手として必要なエネルギーや栄養素をしっかりとるために大切な「食事の一部」にしなくてはならない。
つまりこれからは、食事だけでなくおやつにも気を配って、おやつの内容をぜひレベルアップしてほしいということ。そして、“おやつ”ではなく“軽食”(補食)ととらえてほしいのである。
軽食のタイミングと選び方
選手にとって、食事のスケジュールは試合や練習時刻から逆算されることが多いものである。つまり、試含中のエネルギー補給に効果的なタイミング、筋カトレーニングの効果が上がるたんぱく質の補給のタイミングを考えた食事が"よい食事。となるのである。“軽食”についても、同様に練習時間との関係がでてくる。
@ 練習時問がタ方からで、昼食を食べてからかなり時間が空く場合
・できれば、練習(トレーニング)開始の2(〜3)時間前に軽食をとる。内容的には、練習中のエネルギー源(炭水化物)になるようなものおにぎりサンドイッチ、スパゲティ、100%ジュース、バナナなど。
・練習(トレーニング)まで、1時間くらいしかないときには、おにぎりやバナナ程度で量も一つくらいに抑えたほうがよい。
Aトレーニング終了後からすぐに夕食がとれない場合
・トレーニング終了後なるべく早く使ったエネルギー(炭水化物)を補充するのが鉄則。いかに早くエネルギー源を補給するかが、スタミナ回復の鍵となる。
・内容的には、エネルギー源になるもののほか、筋肉もダメージを受けているのでその補修をするためのたんぱく質源になるものも含めた軽食として考えてほしい。おにぎり、サンドイッチ、バナナ、100%ジュース、牛乳、プロテイン、ヨーグルトなど。
B自分だったら、どんな状況で、どんなものがとれるかを考えておくと、”エネルギー補給の仕方。が自然に身につき、試合のためのエネルギー補給にも応用できるようになってくる。
食物の冒内停滞時問 | ||
食物 | 分量(g) | 停滞時問(時.分) |
ステーキ | 100 | 4.15 |
すき焼き | 100 | 2.45 |
魚・塩焼き | 100 | 3.15 |
魚・刺身 | 50 | 2.00 |
卵・生 | 100 | 3.00 |
半熟 | 100 | 1.30 |
牛乳 | 200 | 2.15 |
成長期のたんぱく質
成人のように(体重1キロ当たりたんぱく質1.01g、筋カトレーニング時は体重1キロ当たりたんぱく質1.7〜1.8g)、具体的に正確な値は定められていない。しかし、成長期でスポーツをしているということを考えると、体重1kg当たり2gくらいがよいのではと考えられている。大人についても同じだが、成長期の場合も、スポーツをしない人に比べて、なぜたくさんのたんぱく質を必要としているのだろうか。それはさまざまな練習の刺激により筋線維が破壊されているからである。
今までにも何回かお話したが、トレーニングをすることにより、細かい筋線維がいったん破壊されて、修復するときに太い筋線維となることの繰り返しで”筋肉づくり”が行われるわけだから、そのときに筋肉の材料になる"たんぱく質"は不可欠といえる。この時期は急激な発育がなされるので、不足に陥らないようにすることも大切である。ただし、たんぱく質は過剰にとると体脂肪として蓄積されるので注意も忘れてはいけない。量的な目安としては、大まかにいうと大人と同じくらい必要と考えてほしい。
@ たんぱく質の効果的なとり方
主なたんぱく質源は、肉、魚、乳・乳製晶、卵などがあげられる。しかし、食品の選び方によっては、たんぱく質をとるつもりでも、かなりの脂質が一緒にとれてしまう場合もある。今までにも説明してきたことだが、特に肉の場合は部位によって含まれるたんぱく質や脂質の量が違ってくるので、注意が必要である。
食品 | たんぱく質(100g当たリ) | 脂質(100g当たリ) |
豚ヒレ肉 | 22.0g | 1.9g |
豚ロース肉 | 26.7g | 22.7g |
べーコン | 12.9g | 39.1g |
牛サーロイン | 16.5g | 27.9g |
牛ひき肉 | 19.0g | 15.1g |
着鶏もも肉皮付き | 16.2g | 14.0g |
鶏ささみ | 23.0g | 0.8g |
Aタイミングを考えたたんぱく質のとり方
筋肉づくりの材料としてのたんぱく質と考えたときは、何よりも成長ホルモンの分泌に合わせることが大切である。成長ホルモンの分泌は、《トレーニング直後》と《唾眠中》である。その時期に含わせることが大切である。ただし、そのときにすでに消化され、筋肉の材料となる状況になっていなくてはいけないので、”食べる”タイミングは、消化吸収時間を加味して考えなくてはいけない。
成長期のビタミンとカルシウム
主な栄養素のなかでビタミンだけは、エネルギー源になったり、体の構成成分になるものではないが、代謝などにかかわり、正常で健康な活動を営む上では絶対欠かすことのできないものである。
よくたとえに使われるのは、いくらガソリンが十分にあっても点火プラグがないと、ガソリンは燃やされず車も動かないという話である。つまり、点火プラグやエンジンオイルの役目を体内でしているのが、ビタミンなのである。
ビタミンB群に関しては、炭水化物がエネルギー源として働くために不可欠なものである。そのため必要量も摂取エネルギーあたりで計算されているくらいである。したがって、成長期のサッカー選手場合は当然多く必要になってくる。
またビタミンCは、腱や軟骨、皮膚を構成するコラーゲンの生成や鉄の吸収にも不可欠な栄養素であるさらに、スポーツをすることによって生じる心身のストレスに対抗するホルモンを作るのにも不可欠である。
国民栄養調査の結果から、日本人にはカルシウムが不足していることがかなり前からいわれている。
カルシウムといえば、何といっても骨の材料-成長期は前述の通り、出生直後に次ぐ第2成長期といわれているため、骨の成長も当然大きい時期になる。また、サッカー選手にとっては、試合や練習中の脚剖への刺激に耐える強い骨は必須。また、強く大きい筋肉を支える丈夫な骨も必要である。そんなことも関係して、この時期はカルシウムの1日の蓄積量、吸収率が急激に上昇し、骨量の増加スピードが最大となるので、必要量もそれに伴い多くなってくる。
また、カルシウムは99%が骨や歯に存在しているが、残りの1%は血液中や筋肉、神経などにあり、神経のイライラを抑えたり、筋肉の収縮をスムーズにしたり、血液凝固にかかわるなど大切な働きもある。たった1%だが、人間の機能の上で大切であり、欠かすことのできない働きをするため、つねに血中のカルシウムは一定量を保つようになっている。
つまりカルシウムが不足してくると、骨のカルシウムを分解して供給する仕組みになっているのである。又ポーツをする人は、多量にかく汗からもカルシウムが流失するので、カルシウムの不足が起きないようにすることが大切である。
@カルシウムの吸収にかかわること
カルシウムの吸収や代謝を促進するものとしては、ビタミンDの他に、ビタミンCや副甲状腺ホルモンがあげられる。これらの他に、たんぱく質も吸収促進に影響する。たんぱく質が不足していると、カルシウムの吸収に悪い影響を与えてしまうので、たんぱく質の適切な摂取はここでも重要になってくる。
その他、年齢もカルシウムの吸収に影響を与えるものだが、成長期は吸収率も40〜45%と高くなっている。また食晶の種類によっても吸収率に差がある。牛乳のカルシウムが一番高く約50%なのに対し、小魚が38%、野莱にいたっては18%となっている。
Aカルシウムとリンの関係
骨をつくるには、カルシウムだけでなくリンも必要である。カルシウムとリンが1対1で結合した<リン酸カルシウム>となって骨に沈着するからである。リンは普通の生活では不足することがない栄養素である。むしろ加工食晶や清涼飲料水などに多く含まれているので、現在はとりすぎに対する注意が必要なぐらいである。カルシウムとリンのバランスが崩れることで、せっかくとったカルシウムも利用されずに体外に排出されてしまうという点を考えると、カルシウム源になるものをとることと同様に、食品の選び方にも気を配り、リンのとり過ぎへの注意が必要となる。
鉄分というと〈鉄=貧血=女子〉の図式が浮かぶ人もいるかと思うが、実はスポーツをする人にとって男女を間わず、鉄不足による貧血の危険はある。ある調査では、高校生のサッカー部では、貧血傾向のある選手が4割くらいいたとされている。
体内の鉄の約70%は、赤血球の成分である"ヘモグロビン〃の中に含まれ、肺で取り込んだ酸素を金身に運んでいる。4%は筋肉中のミオグロビンとして、筋肉を動かすのに使われ、1%は細胞の中でエネルギーを生成するのに使われて機能的に働いている。残りの25%はフェリチンなど貯蔵鉄として、肝臓、脾臓、骨髄などにストックされている。そして、機能鉄が不足したときに、バックアップ用として使われる。
鉄が不足していると、スタミナが極端に低下し、トレーニング量を減らさなくてはならなくなることもあるので、白覚症状がなくても、血液検査をすることにより、潜在的な鉄欠乏の段階で見つけることが大切である。
成長期の食事のまとめ
@バランスのよい食事を欠食せずにとる
成長期に特に大切な栄養素について語してきたが、大切なのは"食事"としてしっかり食べることである。そう考えるとやはり、何度も紹介してきた公式"が大切になってくる。
パランスのよい食事=<主食>+<主菜>+<副菜>+<α>
食事がおろそかだったり、外食がちになったときでも、<α>の部分を間食などで、じょうずにコントロールすることでずいぶん違ってくる。<+α>は、果物や牛乳などだが、ちょっと気をつけると、コンビニ利用で補える部分である。おすすめの<+α>は牛乳「ヨーグルト、チーズ、カットフルーツ、100%ジュース、野莱ジュース、具だくさんの汁物など。
Aエネルギーの素になる"炭水化物”をしっかりとる
とかく成長期の選手にとっては、筋肉の材料になる"たんぱく質"が注目されがちだが、エネルギー源になる炭水化物が不足していると、たんぱく質までが本来の目的から外れて、エネルギー源として使われてしまうことになる。特に試合を前にしたときなどは、主食をしっかり食べておくと試合中もバテずにしっかり走り込むことができることもわかっている。
B牛乳を飲む
Cファーストフードやインスタント食品のとりすぎに気をつける
今月は『成長期の栄養』というテーマで書いてきたが、"成長期”だけ気をつければよいというものではない。いつもいっているように、だれにとっても基本は同じである。食事は、すぐに結果となって表れないぶん、やりがいがないと思う人もいるが、続けることで必ず違いが実感できるだろう。
また、食事は一生健康でいられるための、大きなアイテムでもあるといえる。どうか”自分で自分の食事の管理ができる”を大きな目標にがんばってほしい。そして、”成長期”を過ぎてしまった人も、ぜひ参考にしていただきたい。