実践栄養勝つためのセミナー

久保田尚子(森永製菓・健康事業部管理栄養士)

サッカー選手に効果大の「牛乳」

食事の傾向を見る手段で最も一般的なものが、食事の記録に基づいた栄養分析です。小中学生の栄養分析で、給食のある日とない日の比較をしたものがありますが、給食のある日の分析結果のほうが、カルシウムをはじめとしてよい結果になっています。それは給食があることで結果的に規則正しい生活をしているといった理由が考えられますが、大きな理由は“牛乳”にあると思います。
「米飯給食」のときにも牛乳は必要か、メニューとしてのバランスはどう考えるのか、などという記事を以前、目にした記憶もあけますが、特に成長期の子どもにとって牛乳がいかに大切か、ということが証明される事実でもあります。
 牛乳は、実は古代エジプト人も飲んでいたといわれるぼど、人間とは長い付き合いのある食品です。日本でも文献によると、飛鳥時代から貴重な薬として珍重されて以来の縁ですが、明治時代にはいってからやっと一般大衆にも普及したとのことです。
 またスポーツ界では、かなり前の話になりますが、メダル大量獲得を目標に掲げていた東京オリンピックでは強化指定選手に毎日牛乳1Lが配給されたことはよく知られている話です。

 今では値段的にも安く、強化指定選手でなくても誰でも手軽に飲めるようになってきました。成長期の子どもたちにとってももちろんですが、サッカー選手にとっても有効で大切な食品です。
 さて、食品としての牛乳にはいったいどんな特徴があるのか、改めて見ていきましょう。

牛乳は「完全食品」?
 牛の赤ちゃんは牛乳だけで大きくなれるということから、『牛乳は完全食品』と思われがちですが、実は鉄がほんの少ししかなかったり、ビタミンCはないに等しく、人間にとって決して完全食品ではありません。しかし、良質のたんぱく質、吸収のよいカルシウム、選手に欠かせないビタミンB群なども含む“バランスのよい食品”であるとはいえます。
 以前からお話しているサッカー選手にとって一番大切なバランスのとれた食事は〈主食〉+〈主菜〉+〈副菜〉+〈α〉の公式に則った食事のとり方です。
 牛乳はこのαに属するものです。つまり、牛乳がどんなにバランスのとれた食品だといっても、それだけとっていれば犬丈夫というものではなく、+αの部分としての役割をしっかり果たすものであると考えることが大事です。

牛乳といえばカルシウム
 従来から牛乳=カルシウムの図式がたつほど、牛乳とカルシウムは切っても切れない関係にありますが、なぜカルシウムを最初に取上げたと思いますか?理由の一つは、日本人にとってずっと足りない栄養素がカルシウムだということ、そしてもう一つは、サッカーのようなコンタクトスポーツの選手にとって、カルシウムは不足しないよう特に心がけてほしい栄養素だということです。
 牛乳中には、100gあたり1mgのカルシウムが含まれています。一般的にカルシウムはかなり吸収率の低いものですが、牛乳に含まれるカルシウムは、牛乳中のたんぱく質の影響や乳糖との関係、またカルシウムとリンのバランスがよいなどの点から吸収率の点で優れています。

表1◎牛乳の分類

    生乳 無脂乳固形分 乳脂分
牛乳 100% 8%以上 3%以上
加工乳 70%以上 8%以上    
乳飲料 20〜25%            

表2◎牛乳からできる乳製品栄養成分比較(1食あたり)

            エネルギー(cal) たんぱく質(g) 脂質(g) カルシウム(mg)
普通牛乳200m 141 6.9 8.0 231
ヨーグルト 67 4.3 0.2 120
チーズ1切れ 68 4.5 5.2 166
バター8g 60 0.05 6.5 1.2
アイスクリーム(普通脂肪小)1パック 90 2.0 4.0 70

表3◎同じ“牛乳”でも、こんなに違う!

       エネルギー(cal) たんぱく質(g) 脂質(g) カルシュウム(mg)
普通牛乳200ml 141 6.9 8.0 231
濃厚乳 153 7.4 8.8 231
低脂肪乳 97 8.0 2.1 273
コーヒー牛乳 118 4.6 4.2 168
フルーツ牛乳 97 2.5 0.4 84


牛乳のたんぱく質

牛乳には約3%のたんぱく質が含まれています。これは、肉や魚に比べれば比率的には少ないのですが、牛乳のたんぱく質は質がよく、1回に飲む量が多いことから、大切なたんぱく源と考えられます。
 牛乳のたんぱく質は80%がカゼイン、残りの20%がホエイです。カゼイン、ホエイというと、サッカー選手の場合は、すぐプロテインを思い浮かべる人も多いでしょう。そうです。乳たんぱくが原料のプロテインで、『ゆっくり吸収されるカゼインたんぱく』、『吸収の早いホエイたんぱく』といわれるものです。つまり、プロテインの原料に使われるほど、牛乳のたんぱく質は質がよい、それは必須アミノ酸のバランスがよく、消化がよいものであることの証明といえます。
 “コーヒ牛乳”や“フルーツ牛乳”も一般名詞として『牛乳』がつきますが、正確には嗜好性乳飲料です。
 表を参考にしてください。牛乳のつもりで飲んでも、本来牛乳に期得されるたんぱく質やカルシウムが、ずいぶん少ないことがわかります。やはり、サッカー選手には、牛乳のほうがおすすめです。もし牛乳の味がどうしても苦手という人は、インスタントコーヒーをまぜたり、フルーツと一緒にミキサーでシェイクしたりして、オリジナルの牛乳を作ってみましょう。
 また、牛乳にプロテインをまぜて飲むと、牛乳+たんぱく質+ミネラル+ビタミンとなって、さらなる“すぐれもの”になります。プロテインは、〈高たんぱく・低脂肪〉の食品(サプリメント)ですが、牛乳との相性もバツグンです。

牛乳飲むとお腹が変

牛乳を飲むと、お腹が痛くなるという人がときどきいます。“乳糖不対症”といって、牛乳の糖質(=乳糖)を消化する酵素が少ない人に起こりやすいといわれています。一般的には、赤ちゃんには乳糖を分解する酵素(ラクターゼ)が腸内に多くありますので、母乳を飲んでもなんともありませんが、この酵素の働きは離乳とともに落ち始め、牛乳を飲む習慣が少なくなった成人ではラクターゼ活性はかなり低下するといわれています。
 したがって、一時に多くの牛乳を摂取すると、乳糖が分解されずに腸内に多量残るため、腸内の浸透圧が高くなり、そのため牛乳を飲むとお腹の調子が悪くなる人が出るというわけです。さらに、白人と比べて私たち東洋民族にはその傾向が強いともいわれています。
 ただ、乳糖不耐症の方でも牛乳を少しずつ飲むことや温めて飲むことで、酵素の働きが高まる場合もあるようです。
 また最近は、“乳糖不耐症”の方用にすでに牛乳中の乳糖を6070%分解した牛乳も販売されていますので、ためしてみるのもよいでしょう。また、牛乳の代わりにヨーグルトやチーズなどで代用するのも一つの方法です。
 ちなみに乳糖不耐症と牛乳アレルギーとはまったく違いますので、その点はご理解ください。
 国民栄養調査で『乳類』の年代別摂取量を見ると、給食のある年代(714)の摂取量は他の年代に対してはるかに多いことがわかります。
 また、一般的に給食がなくなる15歳からカルシウムの充足率が不足していることも調査結果に表れています。給食をとっている間に牛乳を飲むことが習慣化されるとよいのですが、なかなか難しいようです。
 バランスのとれた食事の公式で〈+α〉を占める牛乳の価値を改めて知り、“牛乳は太る”というような偏見をなくし、乳製品も含めたさまざまな牛乳の特徴を知りながら、上手に使い分けてください。

牛乳を使ったおすすめ低脂肪メニュー

料理名 主な材料 ポイント
低脂肪ポタージュ
スープ
牛乳・乾燥マッシュポテト
・コーン缶(クリームスタイル)
スープの素・塩・こしょう
牛乳を温め、スープの素を溶かす。そこに乾燥マッシュポテトを適量加える。そのとき練らないように気をつける。コーン缶を入れ、味を調える。バターを使わない低脂肪のボタージュスープです。
ホワイトソース 牛乳・スープの素・
コーンスターチ
本来は小麦粉とパターでルウを作るのですが、低旨肪にするときはコーンスターチでとろみをつけます。こくと風珠を出すために仕上げに適宜パターを入れる。シーフードを加えてパスタソースにも応用できます。
簡単牛乳リゾット ごはん・牛乳・スープの素
・鶏肉(ハム)・コーン缶
・ピーマンなど適宜
牛乳を温め、スープの素を溶かす。そこにピーマン・鶏肉(ハム)などを適当に切って入れ、コーン缶も加える。ごはんを入れて火を通し、味を調える。
牛乳ゼリー 牛乳・ゼラチン(寒天)
・水・砂糖・フルーツ
ゼラチン(寒天)は、水にふやかしてから煮溶かす。溶けたら砂糖を適宜加え、牛乳を加え沸騰直前で止める。容器に移し、フルーツを加えて冷やし固める。パイナップルやキウイなどは生だとゼリーが固まらないので要注意。ポイント牛乳を温め、スープの素を溶かす。


SOCCER CLINIC P104105 05 2003