勝つための栄養セミナー実践編
久保田尚子 (森永製菓・健康事業部管理栄養士)
豚肉でアグレッシブに動く
試合前は“どんかつ”って縁起担ぎの話でしょ?
一昔前までは、試合前は《敵に勝つ》で“ステーキ”と“とんかつ”を食べると縁起がよいというようなことがよく言われていました。しかし、最近では『いまは昔…』の感じで、“よくない例”の一番に挙げられるようになっています。しかし、なぜ“とんかつ”はいけないのでしょうか?脂肪の多いロース肉に、油の吸い込みのよいパン粉の衣をつけて、油で揚げる―とんかつは人気のあるメニューですが、試合を控えた選手にはやはり脂質が多すぎるメニューです。しかし、豚肉そのものもよくないのでしょうか?
サッカー選手は豚肉派!?
何年か前に「ぼくは、試合前日は“豚肉派”です!」と、半分冗談で、でも半分は本気で言ってくれた選手に会ったことがあります。なぜその選手は、《試合前は“豚肉派”》といったのでしょうか?今月は、その答えをさぐりながら、果たしてサッカー選手にとって、本当に豚肉はよい食品なのか、豚肉の秘めた魅力、そして豚肉のおいしい食べ方について考えていきましょう!いままでこのコーナーで何回か触れたことですが、「使うと予想できるエネルギーは予め蓄えておこう!」というのがありました。それは、〈エネルギーを予め貯めこむ〉、つまり食事にも気を配ってグリコーゲンのもとである炭水化物が多く摂っておくということでした。そうしておくと、試合(練習)での動きに違いが出たり、疲労の回復も違いを実感できることがデータでも明らかになっています。
忘れてはいけないビタミンB1
そこでもう一つ忘れてはならない大切なことがありました。試合(練習)のためのエネルギー源として炭水化物を食事からたくさん摂っておくのですが、その炭水化物がエネルギーになるためにはビタミンB1が欠かせないということです。これはいままでにもすでに何度か触れたことでしたね。
また、いくつかの栄養素は所要量がエネルギーの摂取基準に比例しているのですが、まさにビタミンB1もそのうちの一つです。つまりそれは、せっかくエネルギー源になるものが摂れていたとしてもビタミンB1の摂取が不足していると疲労や食欲不振の原因にもなってくることの証明でもあります。集中力や注意力気力も低下し、まるでエネルギー源が不足している時と同様の状態になったりします。
そんなとき、今回テーマに取り上げた豚肉が強い味方になってくれるのです。表を見てください。特に脂身のない豚肉には、サッカー選手のアグレッシブな動きを支えるビタミンB1が他の肉に比べて約10倍も含まれているのです。ビタミンB1が豊富にあるということは、炭水化物がしっかりエネルギーに変換されるだけでなく、疲労物質といわれている“乳酸”も発生しにくくなります。“乳酸”は筋肉痛のもとになるとも言われているものです。
たんぱく質源として人気の高い肉類ですが、ビタミンB1の含有量という観点では、種々の肉の中でも「豚肉は王様」と言えます(もちろん同じ豚肉の中でも部位によって違いがあり、脂身の少ない部位にビタミンB1が多く含まれていますが)。まさにサッカー選手にとっては豚の赤身はもってこいの食品と言えます。
そう考えていくと、サッカー選手にとってビタミンB1がこんなに含まれている豚肉は、大いに摂りたい食品だと言うことがお分かりいただけますね。そして、『試合前は“豚肉派”』と言ってくれていた選手の言葉もまんざら冗談ではないということになります。そして豚肉の素晴らしさが改めてちょっと見えてくるような気がしませんか?
豚肉加工品はどうでしょう?
ここまでのことで、豚肉にビタミンB1が多く含まれていることは、分かっていただけたと思います。それでは、豚肉の加工品はどうでしょう?豚肉と同様に考えて夫丈夫でしょうか?朝のおかずとしても定番で人気者のウインナソーセージも豚肉の加工品の代表格ですが、加工品についても原則は同じでたんぱく質が多く、脂質が少なめのものが、ビタミンB1も多くなっています。例えば、ボンレスハム、ショルダーベーコンがそれにあたります。
おすすめの豚肉料理
サッカー用選手にとって豚肉は“試合前”に限らずいつでもおすすめの食品だと言うことが理解いただけましたでしょうか?
それなら、どれだけ食べても問題ないかというとそうはいきません。やはり、摂るべき目安量があります。所要エネルギーによっても違いますが、一般に選手として目安的な量で考えると1日に豚肉は130グラムくらいでしょうか。どんなによいと言われている食品でも食べ過ぎては…と言うのは豚肉にも当てはまるわけです(摂りすぎたたんぱく質は、体脂肪となって蓄積されるのでしたね)。
豚肉ならどれだけ食べてもOK?
試合前のサッカー選手にとっては、豚肉の〈良いとこ取り〉、つまり“良質のたんぱく質やビタミンB1は欲しいけれど、余分な脂肪は欲しくない”となると、おすすめの調理法は“揚げる”よりもやはり“茄でる”、“煮る”、“焼く”です。そこで、その調理法での簡単メニューをいくつかご紹介しましよう。
〈ゆで豚あっさりサラダ〉
@しゃぶしゃぶ用に薄く食べやすい犬きさに切った豚肉を、ゆでておく。
A野菜(生野菜だけでなく茹でたブロッコリーなども)と一緒に盛り付ける。ノンオイルドレッシングで適量を食べるようにすれば、試合前日でも夫丈夫!
〈豚ヒレ肉の竜田揚げ〉
@ヒレ肉は、しょうゆ・みりん・酒・しょうが汁で下味をつけておく。
A片粟粉を薄くつけ、フッ素加工のフライパンに油を少し入れて焼く。
B最後火が通ったら強火にして周りをカリカリにすると、歯ごたえも出ておいしい。
パン粉の衣をつけた場合と片栗粉だけをつけた場合では、同じ揚げ物でも吸油率は全く違います。
〈豚肉カレー〉
市販のカレールウは脂肪がかなり多いので試合前日は避けたいものです。でも食欲をそそるカレーをどうしても食べたい時などにおすすめのカレーです。
@玉ねぎ・にんじん・じゃがいも・豚肉(塩コショウする)をいつものカレーのように下準備する。
A油を少し入れたフッ素加工のフライパンで@を妙める。
Bカレールウは使わないので、妙めている途中でカレー粉を入れ、スープの素と水、トマトの水煮缶なども好みで入れ、柔らかくなるまで煮て、味を見る。
C柔らかくなったらとろみをつけるために(ルウの代打わりに)“マツシュポテトの素”や“パン粉”を加え、よく煮る。
試合前日ではないけど、脂質を少し制限したいという時には、分量の半分はルウを使い、半分はこの方法でとろみをつけるというのも、OKです。
〈豚肉のレタス包み〉
よくある料理ですが、豚肉をみそ味にすることで、さらにビタミンB群がアップします。@豚の赤身のひき肉か赤身を細かく切って、少し油を敷いたフッ素加工のフライパンで妙める。
A好みできのこ類、ピーマン、にんじんなどの野菜も細かく切って加える。
B火が通ったら、みそ・みりんで味を調える。好みでしょうがや、にんにくを加えてもよい。ちなみににんにくに含まれる硫化アリルはビタミンB1の体内への吸収率を上げます。また、仕上げにすりごまを入れると香りも良いし、栄養的にもおすすめです。
Cレタスをきれいに洗い、水気を切り、包んで食べる。
具を茄でた麺にのせて食べてもおいしいです。なお、麺は中華麺を茄でたものでもうどんでも、変わり冷やし中華のようにおいしく食べられます。
今回ご紹介したメニューは、どれも簡単なものです。一人暮らしの選手の方にも十分試していただけそうなものです。これらを〈主食〉+〈主菜〉+〈副菜〉+〈α〉の公式にあてはめ、楽しみながら上手に補ってみてください。
表 肉種類部位別栄養素の比較(100gあたり)
エネルギー | たんぱく質 | 脂質 | ビタミンB1 | ビタミンB2 | |
豚・ロース・脂身つき | 263 | 19.3 | 19.2 | 0.69 | 0.15 |
豚・ロース・赤身 | 150 | 22.7 | 5.6 | 0.80 | 0.18 |
豚・もも・脂身つき | 183 | 20.5 | 10.2 | 0.90 | 0.21 |
豚・もも・赤身 | 128 | 22.1 | 3.6 | 0.96 | 0.23 |
牛・リブロース・脂身つき | 409 | 14.1 | 37.1 | 0.05 | 0.12 |
牛・リブロース・赤身 | 248 | 18.8 | 17.8 | 0.06 | 0.17 |
牛・もも・脂身つき | 209 | 16.5 | 27.9 | 0.06 | 0.10 |
牛・もも・赤身 | 140 | 21.9 | 4.9 | 0.09 | 0.22 |
若鶏・もも・皮付き | 200 | 16.2 | 14.0 | 0.11 | 0.28 |
若鶏・もも・皮なし | 116 | 18.8 | 3.9 | 0.08 | 0.22 |
SOCCER CLINIC P106−107 07 2003